
藍染めとはなにぞや
其の八
『藍甕』
『藍甕(あいがめ)』は藍染め専用の甕で、徳島の大谷焼が主流です。大谷焼の産地でも、作れる技術と窯持っている窯元は極僅かです。
藍甕は一般的な甕より細長く、縁が攪拌時に染液が溢れにくい形になっています。また、余計なものが混ざっていない土で作られるため、不適切な成分が溶け出す心配もなく、甕が呼吸するため、中の生物が過ごし易い環境が作られると云われます。
染師が皆、この藍甕を使っているわけではないのですが、師匠の勧めと使用する理由に納得したため、私は藍甕を使うようになりました。
藍染めを学びに行く前は45Lのポリバケツを使用していて、それまでの何倍もの容量の1石(いちこく:約180L)甕を活用しきれる自信がなく、おまけに安価なものではない上に、場所の問題もあったため、決断するのに些か時間は要しましたが、結果として甕にして本当に良かったと思っています。
私の師匠は『一丁場 (いっちょうば)』という、昔ながらのスタイルの作業場を管理しています。
一丁場とは4つの甕が1セットで、それが4セットある計16甕の作業場のことをいいます。温度管理のため、甕の胴は地中に埋め込まれ、1セットの中心に加温装置(昔は炉)が備えられています。かつて『紺屋(こうや)』はこのスタイルが主流だったと訊いています。年齢の違う甕を用意し、顧客の要望の色味や納期などに応えるために必要な数だったのだろうと思われます。
師匠の甕は私の甕よりひとまわり大きい1石5斗(いっこくごと:約270L)でその大きさの甕、16甕を管理し、それを全てよいサイクルで染色するということは深い知識と技術と経験が必要で重労働です。
そのような作業場を持つ昔ながらの染師が減少していく中、師匠は担い手の育成にも熱心です。
私は最小限の作業場で、本格的な染師の足元にも及びませんが、小さくても出来る良質な染めを生真面目に守っていこうと心に誓かい、日々染色しています。