藍染めとはなにぞや
其の七
『染色をしていくために』
建てた藍の寿命が尽きるまで、よりよく染色していくために、染液の管理がとても重要となります。管理の仕方もまた、染師によりけりですが、ここでも私が学んだ方法でご説明します。
【藍の寿命】と書きましたが、染液は微生物の宝庫です。その中でも染色に有用な還元菌を始めとする微生物が元氣よく暮らせる環境を、いかに整えるかが藍の管理といえます。つまり、生きものを育てているともいえるのです。
管理には毎日【攪拌(かくはん)】と【灰汁(あく)と石灰の投与】と【温度管理】、そして必要時に【麬(ふすま)の投与】を行います。各種投与はつまり微生物のごはんのようなものです。ですので、分量や必要時のタイミングを見誤ると微生物の元氣がなくなり、最悪の場合、染色が不可能となる取り返しのつかない状態にもなり得ます。また攪拌に関しては、微生物の中でも酸素を嫌うものと好むものが同居しており、その好むもののために必要となります。攪拌し過ぎると今度は酸素を嫌う微生物が過ごしづらくなるというわけです。
【情報通りに管理したり、人のスケジュールに合わせた染色をするなど、「人を中心」に考えるのではなく、藍をよく観察し、藍が人だったとしたらどうなのか「藍を中心」に考え向き合うこと。】
師匠が何度となく仰っていた言葉の要約です。
毎日甕を覗き、液面の様子を確認し、温度を計り、染色の時には素手で染めることでもまた、今はどんな状態かを感じとり、そこで総合的に判断していきます。液面に現れる【藍の華(あいのはな)】と呼ばれる泡も状態を図るバロメーターになります。
そうして順調に健康管理が出来た状態で、私の甕の分量で1日置きに適量を染めていくと、大体2ヵ月半弱程で寿命がきます。
藍の一生。
建てたばかりは元氣いっぱいの青年期。色も濃く、冴えた色が染色できます。
1ヵ月過ぎからは壮年期。最初の力強い色濃さが段々となくなっていきます。2ヵ月前頃からは老年期。淡くなっていき、最後は薄い水色で、ある日染色出来なくなります。
甕がたくさんある場合は、年齢の違う甕で順次染色し、品に見合った仕上げにしていきます。
寿命が来るということは、藍に含まれていた色素を微生物たちの働きですっかり出しきり、使い切ったということを表しています。
使い切った染液の甕の底に溜まっている蒅は畑の肥料にもなります。